「大中小元」と「てんたいぶっちょ」


こないだこういう日記を書きまして、

●030210
これも誰か役立てる人がいるかもしれないから書き記します。
中学校の頃に「ハンドテニス」という遊びが流行りました。多分地域によって名前は違うと思いますが地面に「田」の字を書いて「大中小元」って書くアレです。
四人でゴムボールをポンコポンコ打ち合うのね。勝ち進むごとにフィールドを移動して小>中>大>元に行くわけ。
私これに思いっきりハマって、思いっきり突き指して一ヶ月くらいギブスしてたんですが、それはさておき、これがどうして「大中小元」なのか、当時の私はすごくナゾに思いました。
小>中>大はともかく、なんでその次が「元」なのか、なんかモンゴルに縁でもあるのかと。
もちろん私の身の回りで、この問いに答えられる奴はおろか、そんなこと気にする奴もいませんでした。
んで、一日考えてひらめいたのね。
「元帥」だ!「少将」「中将」「大将」「元帥」の略なんだ!
私は「オレって天才!」とか思って、ポンコポンコやりながら他の三人に解説してやりましたが「フーン」とか言われて終わりました。
子供の遊びには、こうやって意味もわからずに伝えられていく謎めいたキーワードが多々ありまして、結局どうしてハンドテニスに将校の位が関係するのか、多分誰も答えられないと思いますが、私には「ひょっとして…」と思うことがあります。
私はもちろん生まれてませんが、太平洋戦争の開戦直後、シンガポール攻略の戦勝記念に、子供たちにゴムボールが配られたそうです。
なんでそんな物くれるのかというと、要は「ゴムも石油も、南方資源もうバッチグー!」というのを国民に知らしめようとしたらしいんですが、これ当時の子供には相当強烈な体験だったんだそうな。みんな狂ったように貴重なゴムボールで遊んだんだって。
「ボール遊びになぜか将校の位が」というミスマッチは、実はおもいっきり話の根が深くて、この「戦勝記念ゴムボール」にまで遡れるんじゃないかというのが私の推理なんですが、いかがでしょう。
当時のことを覚えてそうなおじいさんとかが周囲にいましたら、ちょっと聞いてみて下さい。
昭和17年の五月あたりのことらしいんですが。

その後掲示板に次のような書き込みをいただきました。
初めまして 投稿者:ゾウザリー  投稿日: 2月15日(土)05時03分03秒
以前より楽しく拝見しております。
10日の日記を拝見するまですっかり忘れていたのですが、件のハンドテニス、ウチの小学校では何故か「てんたいぶっちょ」と呼ばれておりました。
4つのマスが上から「てん」「たい」「ぶつ」「ちょう」。漢字すら不明。
当時は(バカだったので)何の疑問も感じずにヘラヘラと遊んでいたのですが、いまだに(バカなので)これが何を意味していたのか皆目わかりません。
もしやアレが楽しい簡易球技の姿を借りた邪神召喚の儀式だったのでは、と考えると不安でサターンのデススロットルもクリアーできない始末です。
どうかゾルゲ様の鋭い洞察・推理力で、この長年の悩みを取り除いては頂けないでしょうか。
さっそく調べてみたところ、この話、どんどん膨らんで面白くなってきました。
まず、この遊びはわりと日本中にあるポピュラーな遊びらしいこと。(地面とゴムボール一個あればできるからそりゃそうだ。)子供の遊びらしい可塑性で、さまざまな変化を遂げて、変則的なルールや(ドッジボールを使うものが結構多いらしい)名称が山ほどあることがわかってきました。
具体的には私の記憶している「大中小元」のほかにも。
「元大中小」
「天大中小」
「天下町人」
「天下大小」
「天大中小」
「町人ボール」
「町人おとし」
「インサ」
「インサイ」
などがあること、また戦後関西から伝わってきた…などと言う未確認証言もでてきて、ちょっとしたミステリー風味。
調べるうちに運良くこういうものも見つかりましたのでちょっと見てね。
ご好意によって甲南大学、都染研究室の資料から転載許可をいただいたものです。ありがとうございました。
(http://ha8.seikyou.ne.jp/home/wexford/kotoba.htm)
さすがガキの遊びらしく、適当な名前が無数にあることがお分かりいただけると思います。
このうち、関西圏(特に神戸あたり)で流行っていたらしい「インサ」「インサイ」などは初耳で、結構オドロキでしたが、その語源として挙げられるのが英語の「inside(多分自陣の中でいったんバウンドさせるルールのためか?)」と韓国語の「人事(インサと読む、挨拶の意)」というのも、なんかそのミステリアスでいいですね。
個人的には「インサ」だけでなく「インサイ」があるからには、韓国語起源はちょっと苦しいかとも思いますが、「進駐軍からの影響だろうか」、という考察をめぐらせている人もいて面白かったですね。
「はだしのゲン」で、進駐軍の慰問物資をかっぱらうシーンがありますが、案外その中にゴムボールがあり、チューインガムやチョコレートのように、子供に配る兵隊がいたとしたら…などと考えても想像は膨らみます。
考えてみれば、この遊びはゴムボールのような、よく弾む新素材のオモチャがなければそもそもできないので、どうさかのぼっても戦中(の景気がいい頃)、戦後あたりまでではないでしょうか。
さて、これまで挙げてきた例の中に見当たらない「てんたいぶっちょ」のナゾに迫ってみようと思いますが、まずこの遊びにつけられる名前の法則性として。
1.「インサ系」と「漢字四文字系」に二分される
2.「漢字四文字系」には、階級的、闘争的な遊びであることを示す命名が多い
3.などと聞くと白土三平のヒゲ面が思い出されてならないが、要はガキでもすぐイメージできる内容
というのがあります。
階級的、闘争的な遊びであることを示すのはなぜかというに、これがまさしく「成り上がっては転落していく遊び」だからという説明にまず間違いはないでしょう。「大中小元」は兵隊の階級ですし、「天下町人」は最初はよくわからなかったものの「町人おとし」という別称や「大名やこじきという風にマスが分かれていた」のような資料もあったところからすると、中世の社会的階級(…というかまあガキの頭では「侍の階級」)から来ているものと思われます。
(多分「天下」は「天下人」なんだろう)。
また、兵隊と侍という、二つの階級イメージは混ざり合って「天下大小」「天大中小」のようなバリエーションを見せているようです(特に「天」と「元」は字も音も似ているし)
「てんたいぶっちょ」は明らかに「インサ系」とは関係ないので、以下「漢字四文字系」のパターンに絞って話を進めますと、「てんたいぶっちょ」も、「元大中小」のような、何か四種類の階級を表したものが、伝えられるうちに変化して、元の意味が失われてしまったものである可能性が高いでしょう。
すると「てん」と「ちょ」は、「天下町人」から類推して、まず「天」「町」に間違いなのではと思われます。
すなわち「天たいぶっ町」
あとはごく大ざっぱな推測になってしまうのですが、「大名やこじきという区分があった」というパターンから考えると
「てんたいぶっちょ」の正体は、おそらく

「天(天下人)大(大名)武(武士)町(町人)」

ではないでしょうか。
推測ついでに思いをめぐらせると、おそらくこれこそが「ハンドテニス・侍の階級バージョン」のオリジナルではなかったか、と思うのです。
つまり「天下大小」や「天大中小」の前にはこの「天大武町」があり、明快な「元大中小」にくらべると、いかにも意味がわかりづらく、語呂もよくないので、混ざり合った「天大中小」や、省略形の「天下町人」のほうがむしろメジャー化してしまったのでは?というのが私の推測です。
なにしろまったくの机上の空論ですので、異論反論多々ありありだとは思いますが、(特に、「タイ」と「ダイ」なら「ダイ」のほうが音のイメージが強く、あえてタイに変化しないだろうとかの点は弱いと思いますね)逆にそういう意見が集まると、さらにこの話が面白くなるかもしれませんので、どうかタレコミや別の推理をお待ちしております。
でもオレの推理が大ハズレだったり、以前にもっとちゃんとした研究があったりしたらヘコむなあ。
追記
その後掲示板の書き込みに
一案 投稿者:たぐちやすたか  投稿日: 2月15日(土)23時40分29秒
すげぇ通りすがりな者ですがひとつの推測が。
「てんたいぶっちょ」の「てん」は
天皇の「てん」ではないでしょうか?
ボール遊び時に使用してものではないのですが
「てんのうだいみょうぶしちょうにん」
という文言に記憶がありますもので。
のようなご意見をいただきました。考えてみればたしかに「天下人」よりは「天皇」のほうが、語呂といい、日常会話での使用頻度といい、ガキには親しみやすいですよね。
「天下町人」の例があるからには、「天下人」バージョンもあったのでは、と思いますが、おそらくあったとしても速攻で「天皇」バージョンに駆逐されたのではないかと思います。
それよりも、この証言で「たい」「ぶつ」が、どうやら実際に「大名」「武士」であるらしい確証が得られたことが個人的にはうれしい感じです。ありがとうございました!